足ることを知らず

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VOCALOID3は本当に流行するのか?

また新しいイノベーションが起こった。

VOCALOID3が物凄い話題になっています。
ヤマハの『VOCALOID3』の技術が凄すぎると話題に! 機械っぽさがなくなりより自然に歌う声に驚き
http://www.vocaloid.com/lineup/vocaloid3/

発表は去年6月、提供が10月だったのですが、やっと一般人にその凄さがわかる動画がアップされました。


製品版を使用した鳥の詩のデモソング。
D
この動画を見てもらえばわかりますが、
声質に関しては、かなり「進化している」と思います。

ただ、私は今起きている話題は一過性のものに過ぎないと感じています。
そう、初音ミクが現れた時とは、状況が決定的に違うのです。


『ボカロ』は何故、流行ったのか?
まず、VOCALOID3が流行るかどうかということを考える上で、VOCALOID2の流行を考えなければなりません。
今や、ミクは絶大な人気を誇り、一般の歌手を追い越すほどの存在感を示しています。
例えば、itunesで一位を取った下のCMの曲。

今や、ミクの人気は中高生など、若い人を中心に現存のタレントを超えた域にいるようです。
世界ライブをしたというのも印象的。
ミクさんマジ天使! 米ロサンゼルスで開催された「初音ミク」ライブに感想続々 - はてなニュース
ただでさえ天使の初音ミクさん、“日本人歌手”史上最多の世界217か国配信

これだけヒットするようになったのはニコニコをメインフィールドにした、偶像としての初音ミクの成長があります。

これについては過去に少し言及しています↓↓
ボーカロイドは「文脈」と「人格」を手に入れた。 - 足ることを知らず〜Don’t feel satisfied 〜

元々一人しかいなかった新ボーカロイドシリーズにおいて、歌姫の座から単なるツールへと回帰する前にルカに対してのミクという文脈を持ったのです。
彼女はリアルとバーチャルの狭間に生きる存在となりました。

初音ミクの成功は「音声ツールへの回帰」から脱却し、「偶像」「ヒトに非ずのヒト」といった文脈・コンテクストを持ったことに起因するのです。



新しいボカロにおける3つのリスク
さて、冒頭にも書いた通り、今回は2008年ごろに起こったボカロジャンルの勃興期と決定的に違う点が3つあります。


それは①機械というよりはほぼ人間の声へと昇華したこと②既にボカロという領域が構築されていること③既に現存する多くのプロデューサーたちにとって、楽曲作成の難易度が上がる可能性があることです。

「歌ってみた」と「ボカロ」が起こしたイノベーション
私は過去にこんなエントリを書きました。
ボカロはBGMと歌い手(人間)の中間を取っていると。
今回の新しいボカロは、今までより歌い手に近付いていくということです。

そこで一つのリスク・疑問が生じます。
本当にVOCALOIDは人間に近付くべきなのか?

人間の声と隔たりがあるからこそ、二次元で神格化・偶像化してきたミクがいました。
より人間に近付いたVOCALOIDがどういう反応をされるのか、それが疑問です。



もう一つのリスクは、ボカロジャンル自体の摩耗・コモディティ化です。
確かに初音ミクは大きく羽ばたきましたが、レン・リン、ルカなど、他のボカロの名前をほとんど聞くことはなくなりました。
もう、VOCALOIDの一人格として、初音ミクを超える存在は出ないのではないかと思っています。だとすれば、残された方法は初音ミクのグレードアップなのかなと。




最後のリスクは、マーケティング的事情です。
ボカロは多くの作り手が沢山の歌を作り、ニコニコにおいて、聞き手のレスポンスを即時に得ながら、また新しい歌を作っています。その中でも、CD化や日の目を見るのはほんの一部のヒット作品になっています。
特に、作り手が増えれば増えるほど、その人気はロングテールになるため、ほとんどの再生数やマイリスト登録を上位5%程度が握っているパレート最適と呼べるような状況になっていると思われます。
新しいボカロでは、「曲の作り方」も大きく変わると考えられます。(ここは変わらないかもしれません。であれば、私の杞憂です。)
私はキャズム理論は陳腐化したと考えていますが、ここに関しては、適用することが出来ます。
VOCALOID」の世界において、超えるべきキャズムは我々聞き手のキャズムではありません。「作り手」なのです。
多くの作り手が、ある意味手軽に、楽しんで楽曲を作れることが大切なのです。




テクノロジーの進展・イノベーションが歌姫を生んだのではないのです。
ただ、次のボカロの形をそろそろ見たいと感じていることも事実です。
全く違和感のない声で歌うミクを見るというのも、凄くわくわくします。