足ることを知らず

Data Science, global business, management and MBA

ワンストップサービスという落とし穴

イノベーションのジレンマって言葉がありますよね。
イノベーションのジレンマ - Wikipedia
ハーバード大のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した言葉です。

このジレンマにはまるのって、大抵の場合が、既存領域でそれなりの成功を残してきた企業なんです。
で、イノベーションのジレンマにハマっている間に下記のブログに書かれているように
既存領域を破壊するようなイノベーティブなプロダクトが出てきてしまうのですね。
Web系スタートアップに業界人はいらない - ベンチャー役員三界に家なし

その破壊力というや、イチ産業の競争構造をガラっと変えてしまうわけです。ブログにも書かれていますが、これはシリコンバレーで輝く皆さんのマネタイズに対する意識が寄与する部分が大きいです。

即ち、破壊しつくしてからマネタイズを考えるので、一度その産業の収益基盤を更地にするのですね。顧客を思いっきり獲得して、デファクトを獲得してから、マネタイズを考えるわけです。

で、別に競争相手は新興企業だけではなくて、ポーターの5forcesよろしく、内田さんの異業種競争戦略よろしく、侵入者自身も意図しないような、全く異なる業種/リスクからアタックされる場合も多くなっているわけです。

参考
ポーターの5forces:Porter's five forces analysis - Wikipedia
内田さん異業種競争戦略

異業種競争戦略

異業種競争戦略

例えば、セブンカフェなんて、小売業態だったセブン-イレブンが、缶コーヒーとマクドナルドとスタバの売上を少しずつ食っているわけです。


そしてこれも最初からコーヒーを売る企業をライバルとして行った戦略ではなくて、あくまで小売としての魅力を高めていった結果、ああいうサービスが出てきたのです。
セブンはセブンプレミアムセブン銀行考えると、相当色んなところに喧嘩を売って、且つどこの領域でも競争相手を駆逐してきたといえます。


で、既存企業(飲食産業)はこれにどう対抗するかというと、
・コーヒーという単商品で倒しに行くか
・セブンにない商品を絡めて倒しに行くか
という二通りの決断を迫られます。


前者は血で血を洗う争いですし、そもそも単商品では赤字とか言っちゃってるセブンカフェとガチンコで殴りあうなんて狂気の沙汰ですよね。


じゃ、やっぱり自らの強みである既存領域との抱合せで・・・というやり方になってくるわけです。

この議論で非常によく出てくる話が、ワンストップサービスです。
即ち、顧客に「商品選択」「エグゼキューション」も含めた価値を提供しようという論理。


ワンストップサービスとは - IT用語辞典

一度の手続きで、必要とする関連作業をすべて完了させられるように設計されたサービス。特に、様々な行政手続きをいっぺんに行える「ワンストップ行政サービス」のことを指す場合が多い。民間で使われる場合には、一ヶ所で必要な物がすべて買える「ワンストップショップ」や、複数の支払い請求を一括して処理する「ワンストップビリング」などのように、総合性・包括性を強調することにより、顧客の囲い込みをはかるためのマーケティングメッセージとして利用される。

たとえば、プラモデルで行くと、完成品を売るビジネスです。パーツ単体で売っても儲からないし、自分たちより優れたパーツの提供者も出てきた。
だから、我々はパーツの選択と組み立て、塗装も含めて、完成品を売ろうという論理です。



加えて、新しい利益を生むような事業は、既存の利益を蝕む可能性もあるというイノベーションのジレンマから、
新しい利益を生む領域にも手を伸ばしつつ、既存利益の事業も絡めようという提供側の論理としても
上記はいわゆる大企業にとって社内の意思統一も「通りやすい」戦略なのですね。
これすごく真っ当ですし、いわゆる日本の大企業のほとんどはそこに行きたいと思うわけです。
新領域と既存領域を抱き合わせで売ると、両方もっと売れる、でもそれは、素敵なお花畑だと思うのです。



そもそもワンストップサービスって、顧客がアホである前提の元に行われるサービスなのですね。




例えば、秋葉原で自作でPC組むような奴らにワンストップの完成版PCを提供しようとしたら
鬼のように高性能なものを低価格で提供しないとほぼほぼ買わないでしょう。それと同じように、ワンストップサービスというのは顧客のリテラシーが低いことを前提にしていると思うのです。



そもそもワンストップというのを顧客側から見ると、意思決定権とオペレーション・商材の外注なわけです。
意思決定権を外注する理由なんて、二つで、「大した意思決定ではない」か「そもそもその領域に対する経験・リテラシーが乏しい」しかないのです。でなければ、オペレーションの外注(パーツ・商品)に対して適切な意思決定を顧客が行えばよいのです。



ただワンストップサービス、実際これは食っていけるのです。顧客はそんなに賢くないのです。ヤマダ電機のPC初期設定サービスがバカにされてましたけど
ワンストップサービスがもうからなければ、とっくにやめているはずです。(コストかからんので続けている可能性もありますが)



が、これからも儲かるかと言う点(継続性)に関しては?マークがつきますし、
ワンストップサービスを行うことで、オペレーションや商材が陳腐化(部分競争力の低下)していく可能性も高いです。



まず、継続性についてですが、顧客は少しずつではありますが、賢くなっています。
何故なら、賢い顧客が今までとは比にならないくらい情報発信をするからです。
その格差はすぐに埋まってしまうのです。
アービトラージビジネスが成立しにくいのと同じように、リテラシー格差もすぐに埋まる構造になっているのです。



加えて、ワンストップサービスは、パーツを磨くという当たり前の行為をないがしろにします。
パーツを磨くのはどうしてもプロダクト・アウトの考え方が必要です。オリジナルのコンセプト、実現したいイノベーション。それに対して、ワンストップサービスは顧客の求めることを考えるあまり、どうしてもパーツの陳腐化から逃れられません。クリステンセンの「企業は顧客と投資家に資源を依存している」状況も大きいです。既存の商品をうまくパッケージングする流れになってしまうのです。



パッケージング屋さんになってしまうと、要はアレンジメントが仕事になってしまいますから、前述のようにいとも簡単に破壊される時代がすぐに来てしまいますし、賢い顧客はパッケージングを自分でしてしまう(オペと商品を最適に組み合わせる意思決定)ので、パッケージング屋さんから、提供できる価値がなくなってしまうということが起こりえます。



じゃあ、やっぱり将来価値を生むパーツの開発、事業開発に資本を入れて・・・となれば良いのですが、
ボトムアップの国日本は、そこが超難しいのです。
声が大きい部署は既存事業として利益を生んでいる部署です。これらの部署は将来的にはどうかわからないが、既存利益は大きい。そうなると、既存領域を脅かす新しいものへの資本投下には必ずケチが付くわけです。



そこには強烈なリーダーシップと会社の将来の利益を考えた意思決定がないと前へ進む事はできません。右向け右、このラインから一歩も出るな!、特攻は皆で!っていうカルチャーだとなかなかリーダーは育ちにくいのです。



さて、今日の話を一言でまとめます。
ワンストップサービス推しというのは、実は選択と集中ができていないという何よりの証拠だ、そして非継続的で部分競争力の陳腐化を招くという話。