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デジタル広告ターゲティングが駆逐される日:何故こうなったのか?これからどうなるのか?

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昨今のデジタル広告に関するID周りのトレンドは明らかに下火だ。

アップル、Googleはモバイル及びブラウザ周りの追跡性のあるIDをすべて第三者提供しない方向性で進めている。これはターゲティングだけでなく、デジタル広告のアドバンテージだった、計測性にも大きな影響を与えている。

 

Tapad Is Shutting Down Its Business In Europe | AdExchanger

クロスデバイスのIDネットワークを持っていたTapadはヨーロッパでの営業活動を中止した。これは、GDPRの影響が大きいと思うが、GAFAの動きも鑑みると、こういうSmall Tierのプレイヤーがアドテク周りで出来ることは今後ますます縮小していくのではないかと思われる。

 

これは自らも扇動した当人なので懺悔しなければならないと思っているが、2010年ごろのデジタル広告というのは、ターゲティング、パーソナライズドされた広告への夢でいっぱいだった。誰もが、個人のニーズ、行動に沿って広告メッセージが適切に配信され、広告主が潤う世界を夢見ていたのだ。むしろこの夢を描いていたのは、代理店ではなく、デジタル広告プラットフォーマーたちだった。そして我々代理店と多くの広告主は、旧来型の広告が効かなくなるという脅し文句を真に受けて、このターゲティング祭りの神輿を担いだのである。

 

デジタル広告はどこで道を間違ったのだろうか?最初から間違った道に入っていたのだろうか?思えば、そもそもの前提条件があいまいなまま広告市場を立ち上げてしまったことが問題だったのではないだろうか。

旧来メディアでの「当たり前」がいい意味でも悪い意味でもネットメディアでは当たり前ではなかったのだ。大手広告主の広告が、アダルトビデオと一緒に閲覧されることは、旧来のメディアではありえなかった。露出したと言っているのに、displayに移っていない(unviewableな)こともまずないだろう。

それがあいまいなまま、見せかけのKPIにとらわれ、「マス広告は終わった。これからはネットの時代」「ネットによるOne To One マーケティングに比べたら、マス広告のようなバラマキは無駄だらけ」と言った調子のよい表面的な言葉にホイホイと予算をつけていったのが今の成れの果てだ。

マーケターは全員自問すべきだった。「ネット広告をきっかけにモノを買ったことはあるのか?」と。「どんなネット広告を私は覚えているのか?」と。

 

そして、デジタル広告は、媒体と広告主を差し置いて、中間業者であるGoogleに莫大な利益と権力を渡した。今、Google独禁法とプライバシーの両方に応える結論を出さなければならず、その解決はほぼ不可能に見える。プライバシー保護のため鳴り物入りで出してきたFLoCとクリーンルームは、どちらもGoogleの独占的な力をより強めることはあっても、第三者ベンダーに権力を移譲する仕組みには逆立ちしてもなりそうにない。そんなことを言っていたら、Googleは3rd Partyクッキー排除の予定日を遅らせてしまった。

The Online Advertising Industry Reacts To Chrome’s Cookie Deprecation Delay | AdExchanger

 

これは別に朗報でもなんでもなくって、シンプルにGoogle側も自分の立ち位置に苦しんでいるのだろう。結局データをオープンにする(自由競争)とプライバシーセキュリティは相いれないのかもしれない。もはや、広告ターゲティングという蜜を諦め、Appleのようにプライバシーを徹底的に守るスタンスのほうがわかりやすいのかもしれない。Googleにそれを言える収益構成があれば、の話だが。

 

正直、マス、デジタルにかかわらず、広告主から間接的に収益を稼ぎ、生活者へと情報を流通させる広告モデル自体の限界が来ているのかもしれない。大量生産、大量消費の時代が明らかに終わりを告げているとき、何故情報だけが、旧時代のルールと慣習を守り続けるのか。メディアはきっと姿を変えていくだろうし、マーケターという職業は常に新しいスキルセットを手に入れて、生き残るだろうが、今間違いなく広告という情報流通方法には過渡期が来ているのだと思う。

 

とはいえ明日の飯のタネとして、マーケターとしては、質の議論や、本質的な効果検証をするためにどうデータを分析するかに注力したほうが良い。MMMでもなんでも良いと思うが、もはやUser IDベースの完全な広告検証を広告プラットフォーム介して行うのは絶望的に近いので、統計的なモデルを使って、意思決定に必要な最低限の粒度で分析をし、補完するしかないだろう。