足ることを知らず

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ネットの需要はネットの外に出ない

Wolframの起こそうとしている風は吹くべき、しかし絶対吹かない風。

Wolfram Alpha、iPhoneアプリの価格設定で計算ミス | TechCrunch Japan

ここでは、主に2番目の点について語ろうと思う。なぜなら、Wolfram Alphaを使ったことのある人にとってこのアプリの説明は、同サービスの洗練されたインターフェースである、というだけで十分だからだ。Wolfram Apphaがアプリを$50で売る論理は理解したが、この論理には誤りがあると私は思う。彼らが言うには、

価格について ― $49.99という価格は、これと比較して機能の劣るグラフ機能付電卓の半分であり、そこからこの数字に行きつきました。あるいは、以前から言っているとおり、スターバックスのカフェラテ12杯分の値段でもあります・・・

どちらの指摘も当たっているのだが、App Storeは、例えばオフィス・デポにふらっと入ったり、グラフ電卓を買うのとは異なる経済的現実を作り上げてきた。アプリは安いほどよく売れる ― 無料または$0.99 ― ことは明白だ。Appleは最近この傾向を緩和すべく、App Store「トップセールス」セクションを追加した。これはよかったのだが、$90のNavigonというGPSナビソフトを除き、トップセールスアプリはすべて$10以下であり、かつその殆どは$3以下なのである。【訳注:日本ではトップセールス上位20に、1000円以上のアプリが10本以上入っている(09-10-19現在)】


実在の商品とデジタルデータを比較したこの論理は絶対に通用しない。



ネットの商品には「金を払わない慣習」
コンテンツとしての価値を考えれば、鶏と卵の問題が常について回る。ユーザーを集めるには魅力的なコンテンツでなければならないが、魅力的なコンテンツにするにはユーザーを集めなければならない。だから、少しでもユーザーを集めるために全ての障壁を取り払わなければならない。お金を払うというのは代表的な障壁だ。

だからネットコンテンツはほとんどが広告ビジネスのモデルを取る。猫も杓子も広告やGoogleアドワーズAmazonアフィリエイトに頼ったり、メディアレップなんていうネット専門の中抜き業まで成立してしまう。
然るべきものに然るべき金を払う慣習はネットには根付いていない。



ネット内で完結する需要と供給モデル
ネットって供給の直接的なコストがあまりに低いために、供給量が多くても問題がない。勿論開発費等はかかっているのだけれども、固定費に近いもので、変動費はサーバーぐらいのものだ。だから、需要が高くても価格は高くならないように感じる。そして、タダだから集まり始めたユーザーによって価値を持ち始めた「限り」のある広告枠が実質的なビジネスになる。広告枠だけは有限ですからね。場所的にも時間的にも。



例えばニコ動は500円の課金システムを入れて成功してる数少ないネットコンテンツなのですが、この500円の価値は絶対に現実世界と比べてもほとんど意味がない。ニコ動の有料会員は「ニコ動をこれまで使っているニコニコ中毒」向けのサービスだと考えられます。この人たちにとってはニコニコの有料会員の500円は「むしろ安い」と感じられると思う。このような場合、金額の妥当性はアトム的などの商品と比べたって仕方がないのです。


デジタルデータの供給モデルをうまく設定したのはネットゲーム
結局の話、デジタルデータを製品として上手く売り出しているのは「ネトゲ」が一番だと思う。ゲームを出来るというサービス自体にはそこまでプレミアはないのだけど、アイテムにプレミアをつけることで高い需要に対する低い供給を生み出した。これで、アイテムに関しては高い価格を付けることが出来る。似たような構造を感じたのは「トレーディングカードですね。あんなのただの紙なのに、コレクターによって物凄い価値を持ち始める。カードの価値は「そこに書いてある情報」なわけで。正にデジタル化しても変わらないことが容易に予想できるわけです。


猫も杓子も広告でやっていけるの?

ネットの広告を見ていて思うのが、広告枠が多くなった分、やはりクライアントが「どのサイトに広告を出すか」ということについてかなり考えなければならなくなったこと。どこに広告を出すのかということに関して、以前よりも考えなければならない。テレビや新聞であれば、どのテレビ、どの新聞に広告を出すかというのは企業のブランドイメージにつながるほど大きくはなかった。むしろ、番組内容であったり、出す場所にそれは依存していた。ネットではコンテンツ自体に企業のブランドイメージが左右される。クリーンなクライアントを獲得するためにはあくまでクリーンなコンテンツでなければならない。そうすると、今の広告効果が大きいとされるソーシャル系サイトでクリーンなクライアントを獲得できるコンテンツは非常に少ない。クリーンにしすぎれば、それは厳しい規約につながり、ユーザー獲得の障壁になるからだ。ニコニコだってネトゲの広告ばかりである。mixiKDDIの広告を時々出していたが、モバイルの方の広告はエロ本まがいばかりだった。

即ち、これからどの様にしてクライアントの幅を広げていくのかという点と広告以外のモデルに頼っていけるかということが成功課題なのではないでしょうか。