足ることを知らず

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AIに代替される職能をみんな勘違いしているのかもしれない

AIに人間の仕事が代替されると言われて結構時間が経っていることに気づいた。

多分初めの方にそれが述べられていたのは、下記の野村総研のレポート。

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

ここでは、AIではなく、コンピューター技術、とされているので、ピュアAI的な文脈での話とはちょっと違うかもしれないが、まぁこのレポートで日本のAI仕事奪う議論には火が付き始めたと思う。

AIが仕事を奪うとは?なくなる仕事・残る仕事とAI時代の職業選択のポイント | AIdrops

 

 

 

 付加価値と給与と処理タスクの話

ここで特に槍玉にあがったのは、小売業であったり、いわゆる「賃金が低い」=「低付加価値」=「単純作業」と思われていた職業の人たちである。ここらへんのオペレーションの人たちは、単純作業を繰り返しやっているだけで、基本的に付加価値の高いことはやっていないという論理展開だった。一見正しいようにみえるこの論理展開だが、下記2つの反論を例を用いて述べたい。

 

・AI代替可能性と経済価値は必ずしも比例しない。

・作業・タスクの難しさの定義の中には処理情報量と独自性の2点が介在する。

 

 

 AIに代替されるのは高給取りの専門家である可能性

今、最もAIが人間の仕事を奪って、経済的な価値を最大化しているのはどの分野だろうか?

間違いなく、証券会社のトレーダーだと思う。

news.efinancialcareers.com

 

The model for automation on the trading floor is Goldman Sachs’ U.S. cash equities team, which had 600 traders back in 2000, but now just has two. The rest of the work is carried out by computers and a team of 200 programmers.

 ゴールドマン・サックスでは、600人のトレーダーが2000年にいたのに、今はたった2人、それはすべて200人のプログラマーとコンピューターに代替されたというのだ。2000年のトレーダーといえば、超高給取りで有名だった。憧れの職業の一つだったわけだ。

 

恐らく賃金の高さではトップクラスだったトレーダーたちが、真っ先に単純なAI、機械学習アルゴリズムの餌食になったわけである。ここで一つ言えることは、職能のキャッシュ生成効率が必ずしもAIの代替難易度とは比例しないということである。

 

 

 

 人間にとっての作業の難しさと機械にとっての作業の難しさは違う

高給与で複雑性が高いと思われていたが、実はAIの代替脅威にさらされている職業は他にもある。弁護士、医師、会計士等の士業である。

 

根本的に彼らは、「人間にとっては」ありえないくらい難しい国家試験をくぐり抜けた「極めて優秀な」人材である。士業は膨大な情報量を記憶し、パターン化して、試験に合格する必要がある。特に上記の3つは過去事例に基づいた判断をシステマティックに行う部分が多いほど、代替性が強くなる。

 

もちろん、今のAIに国家試験を通過するスキルはない。しかしながら、仕事の中ではスコア化がしやすく、ルールベースの処理をやりやすい部類に入る。

 

仕事の難しさとは

 AIに代替しやすい職業が人間にとって簡単な作業であるとは限らないというのがこのブログの骨子である。そのために、少しフレームを考えよう。いわゆるホワイトカラーのジョブにはインプットとしての情報の処理量とアウトプットとしての情報の価値が常につきまとう。

インプットとしての情報に関してとにかくたくさんの情報を処理しまくり、アウトプットを出すことに関しては人間がAIに勝てる余地はない。しかしながら、アウトプットでユニークなもの、新規性を出すことが必要とされる仕事は、ホワイトカラーの中にも少なくない。この類の作業は、とてもではないが、今のAIには遠い未来の開発事項になると思う。例えば、DQNがとても独創的なビデオゲームのクリアの仕方をするような独自性の出し方はあると思う。しかしながら、これは「大量のフィードバックデータが安価に集まる」という特殊条件の下に成立する話であって、とても一般化できる話ではない。

 

まとめると、いわゆるAIによる産業革命というのはデータ処理の革命であり、明示的なルールのもとに膨大な情報を処理していた作業を簡易化するという革命だ。

 

AIによる産業革命が、過去の産業革命と決定的に違う点はここにある。低賃金の労働者の職能を奪い去るのではない。むしろ高付加価値と思われていた職能を誰でもハンドルできる簡易化されるものに落とし込むことがAIによる産業革命なのではないだろうか?

低賃金、低付加価値と思われている職業が職を奪われるのはAIの発展によるのではなく、もっと単純な自動化や機械化によるものであり(例えば自動レジ等はAmazon GoのようにAIをバリバリ使わなくてもイギリスの有名スーパーのような性善説に基づいた自動化も充分成立する)、これらのオペレーションベースのトランスフォーメーションはそんなに簡単には進まないと思う。

 

一方で、弁護士等の士業に関しても最後は倫理的な障壁を超えられないと感じる。それこそ、過去の判例や条文の整理はAIで代替されるにしても、最後の最後、今後の裁判に影響する判例を創り出すのは人間にゆだねられるのではないだろうか。(GANとかで判例生成と判決をうまくデザインできたら面白いかもとは思う。)

note.com

 

特に弁護士については、上記の契約書業務の記事がナマナマしくて面白かった。