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リー・クアンユー、世界を語る

シンガポール建国の父、リー・クアンユーのインタビュー本を読んだ。
リー・クアンユー - Wikipedia

リー・クアンユー、世界を語る 完全版

リー・クアンユー、世界を語る 完全版


彼はシンガポールの建国を、独裁的に進めた人間として知られる。リベラル、民主主義をよしとするアメリカにおいても彼の評価はとても高い。彼の強みはポリティカル・コレクトネスに屈することなく、本質的なビジョンの提示とそれを実現するのにクリティカルな要素を政治として実行してきたことにあると思う。英語の公用語化はその最たるものではなかろうか。そして、彼は絶妙なバランスで、英語と中国語のどちらを学ぶか国民に選ばせる形で、公用語をシフトさせていった。

本書の構成は中国、アメリカ、インド、イスラムなどに対するリー・クアンユーのインタビューをまとめたものであるが、個人的にまとめなおすとすれば下記のような論点があったと思われる。

・民主主義vs独裁主義
自由主義vs管理主義
・教育(言語と議論の大切さ)
大きな政府vs小さな政府

リー・クアンユーアメリカに対するリスペクトは相当のものがある。アメリカが彼の独裁を批判する第一国であったにもかかわらずだ。彼は、アメリカの治安や自由主義がいきすぎたところによる政治の腐敗について指摘をしていた。アメリカの大統領選は明らかに国益を高めるものになっていないし、今や政治家のマニフェストよりも私生活や共感性が取り上げられ、メディア戦略の戦いになってしまっている。すなわち、個人の自由を最大限保障したアメリカのdiciplineについていける人間はそんなに多くないということだ。

一方で、アメリカの優位性は今後10年は覆らない、何故なら今後もアメリカを中心にエリートが輩出され、彼らが世界でのリードを取っていく。それを支えるのは強い自己責任の意識と、Diversityによる議論を歓迎する文化と、アントレプレナーシップを奨励する(ゼロから作り上げる)価値観である。そしてこの3つを強く支えているのは、英語という多民族を結びつける共通言語にほかならない。中国もこれから間違いなく台頭していくであろうが、アメリカの4倍の人口がありながら、現在の位置に甘んじているのは上記の三要素が欠けているからだとリーは結んでいる。

同時にそのような土壌が整っていない国で自由主義をすれば、エリートではなく下層に国民全体の平均レベルが引っ張られていることになっていく。いつの世の中も愚民は怠惰なものだ。求めることは一人前だが、その生産性はゼロに等しい。リーがその本質を見越して、管理政治を強く導入したことがシンガポールの礎になっている。同時に独裁主義にもかかわらずむやみな愛国心を煽ることなく、一歩引いた客観的な愛国心を国民に求めたことからも、彼がアメリカへの憧れを強く持っていたことがわかる。

加えて、彼の技術に対する解釈は今でも示唆に富む。彼はこの十年で大きく変わったものは技術やインターネットの台頭であり、これを軸にすべてのソフトスキルを変えていく必要があると述べている。また、技術の発達とともにインフラの充実が整うものの、まだインドと中国のインフラの差は歴然たるものであることも本著で指摘されている。

現在のグローバル情勢と比べても全く遅れていることはない名著だと思うので、是非読んでみてほしいと思う。

注:アメリカ内で議論は歓迎されるものの、その外すなわち格下に見ている海外諸国に対してはConsistencyの名の下にただDiciplineに沿って動けという文化だと感じることも多い。その最たるものが現在の大統領にあらわれているのではないか。